雨上がりのヒツジ

ステージ4乳がん多発性肺・骨転移闘病記

バラの香りをかいで、ロウソクを吹き消して

毎日通勤中の車の中でアメリカのNPR(=National Public Radio)を聴いているのだが、今朝は"Fresh Air"という番組でブロードウェイ俳優夫妻のインタビューが紹介されていた。


二人ともトニー賞を複数回受賞した実力派で、夫の方は春にコロナに感染し重篤な症状に陥り、妻の方も症状は軽かったものの同じくコロナに感染し、さらにその数週間前にALSと診断されたという。


夫婦は病にかかったお互いのことを思いやり、尊敬し、励まし合っていることがそのインタビューから伝わってきた。インタビュアーから現在の心境を聞かれた夫は、こう語っていた。
「まず・・・とにかく疲労困憊です。でも何とか様々な人のサポートを得て毎日乗り切ることができて有り難く思っています。そして、病に立ち向かう彼女の側で手助けできることを特権だと感じています」


夫は妻を、妻は夫を互いに「強い人」だと賞賛し、途中感極まった夫が声を詰まらせる場面もあった。夫のコメントを聴きながら、熱烈に愛し合っている夫婦の片方(もしくは両方)が病気になった時、深く愛し合っているが故に感情の振れ幅も大きく、その結果"疲労困憊"するのだろうなと思った。それがいいことなのかどうか、私にはわからない。自分に置き換えて考えてみると、長期に渡る闘病となると配偶者には感情的にならず淡々と接してくれる方がありがたい。だから、この夫婦の絆の深さに感銘を覚えたものの羨ましいとは思わなかった。これは感情表現がオープンなアメリカ人との国民性の違いなのかもしれない。


一方、これは羨ましいなと思ったエピソードがあった。夫がコロナ感染で肺炎に近い症状になり、呼吸をすることもままならない状態に陥った際、鼻から息を吸い口から吐くという動作のために看護師がこう声かけをしてくれたという。


「さあ、バラの香りをかいで(Smell the rose.)、そしてロウソクを吹き消して(Blow off the candle.)」


つらかった入院期間であの言葉は楽しい気持ちにさせてくれて、今でも心に残っているんですよ、と夫が語っていた。なかなか気の利いた表現だ。これも国民性か。アメリカ人は日本人が照れ臭くてとても言えないことを臆することなく口にできるのだな。こんな言葉をかけてもらったら気持ちも上がるだろうな。運転しながら口元がほころんでしまうのだった。